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Schubert
シューベルト

曲目解説&名盤紹介

交響曲第9番ハ長調「グレイト」

曲目解説

 シューベルト最晩年の曲の一つ。色々な意味で極めて重要な曲である。シューベルトというと、ベートーヴェンのような闘う人ではないイメージがある。また、シューベルティアーデなるシューベルトの友人たちからの援助もされるほどの人柄でもある。短絡的かもしれないが、この二つのことだけでも、優しく人の良い性格だった気がする。要はいいヤツだったのではなかろうか。だが、彼が作曲した曲を聴くと、そのような人物が作ったとは思えない曲が多い。彼の曲の中で傑作と言われているものは、大抵が強烈な主張をしている。それこそ、ベートーヴェン並みである。少し曲名を挙げてみよう。「未完成交響曲」、「弦楽四重奏曲第14番」、「ピアノソナタ第21番」などは、聴衆に訴えかけてくる内容が強烈で濃い。この交響曲第9番「グレイト」も同じく内容が濃く、強烈なメッセージ性がある。だから、シューベルトは内に熱い闘志を燃やしていたのではないかと勘繰ってしまう。闘志がなければ、ボヘミアンな生活を覚悟して、芸術家の道へは進まなかったであろう。



 第1楽章は、ホルンの緩やかで深い響きの序奏で始まる。このような冒頭の曲は、シューベルト以前は、誰もやっていない。この序奏は緩やかだが、力強い意思でも示すかのようだ。本編に入ると、更に力強く、気力の充実した主題が登場する。この頃、シューベルトは間違いなく病魔と闘っていたはず。苦しかったに決まっている。だから、楽想は、力強いのだが、どこか憂いがある。そして、その憂いを払拭しようと闘っているようである。気迫溢れる曲である。

 第2楽章は、アンダンテの緩徐楽章。緩徐楽章なのに、刻むようなリズムを弦が奏する。このリズムは、なんとか前進している自分のことではなかろうか。第1主題は、悲哀を感じるが、第2主題は、胸が一杯になるほど気高く崇高で美しい。やはり、この楽章もシューベルトは思いの丈をぶつけているとしか思えない。難病がかなり進行している状況に決まっているのだから、本人は薄々感づいていたはず。悔しいに決まっているのだ。

 第3楽章は、スケルツォ。雄渾なスケルツォである。コントラバスとチェロが主題をガリガリ奏する。雷のように。次に、ヴァイオリンが入ってくると、今度はその主題を切なく歌う。さらに進んでいくと、怒りであろう、ティンパニがコントラバスとチェロに加わり主題を刻む。次に第2主題は、果てしなく切ない歌である。この歌の箇所は、指揮者にとって腕の見せどころである。感動を呼ぶこと請け合いである。

 そして、第4楽章。この楽章も凄い。冒頭でハッキリと勝利を宣言している。凄い指揮者の演奏を聴くと、この楽章はドキドキしっぱなしである。シューベルトの指示はアレグロ・ヴィヴァーチェ。アレグロは速く、ヴィヴァーチェは活発に速く生き生きと。大迫力で敵を圧倒しているかのよう。もちろん、シューベルトは、芸術性は忘れない。が、私は、怒涛の進撃と言いたい。最後のコーダも圧巻である。このような交響曲、熱い血潮を持ってなければ書けるはずがない。間違いなく、シューベルトは大勝利を何百年に亘り掴み続けている。私は、この曲でシューベルトに何度も気合いを注入してもらった。シューベルトももっと長生きしてほしかった作曲家の一人である。

名盤紹介
デイヴィス/BSO お薦め度:A++
カラヤン/BPO お薦め度:S

デイヴィス/BSO

デイヴィス

指揮:サー・コリン・デイヴィス
管弦楽:ボストン交響楽団
レコーディング:1980年3月15-17日
場所:ボストン、シンフォニーホール

 このCDを購入したのは、何十年も前である。その当時、一度聴いて良さが分からなかった。あまり良い印象を持っていなかった。デイヴィスに対する私の好感度も至って普通であった。ところが、購入してから、10年ぐらい経過したところであろうか。デイヴィスのシベリウスを聴いた。それまで、シベリウスの交響曲は苦手な部類に入っていたのだが、デイヴィス指揮の演奏を聴いて大好きになってしまった。曲を好きになるときなんてそんなものかもしれないが、その時、デイヴィスに対する私の好感度がかなり上昇した。それで、ある時思い出した。デイヴィスのグレイトを持っていたことを。聴き直した。ところが、やっぱり分からない。グレイトは大好きな曲。そして、更に月日が流れて本日、デイヴィスのグレイトを聴いた。

デイヴィス

 これが、なかなか良いのだ。これほど透明度が有り、深い息遣いの演奏があろうか。何故、今までこれが理解できなかったのか自分に理解できない。第1楽章の序奏のホルンの深い息吹きにため息がでる。優しくも強いシューベルトの病との闘いの物語の幕開けに相応しいホルンである。第2楽章は、シューベルトが優しく一歩一歩着実に前進する様を表現しているよう。切ない歌もあり、そこがまた涙を誘う。第3楽章スケルツォ。カラヤンやバーンスタインのような激烈な闘いの印象はない。理性を保ちつつ、弦楽器は奏する。この楽章は、音を刻むような演奏が多いが、デイヴィスはシューベルトの優しさを強調するかのように柔らかいタッチで巨大なスケルツォを表現する。切ない第2主題では、大人しく歌いながら、脇役の楽器の音も実に効果的に聴こえてくる。楽器間のバランスが絶妙でサウンドもマイルドである。第4楽章フィナーレで、シューベルトはオケに大勝利の歌を歌わせる。この演奏からは、第1楽章から第3楽章までのマイルド感が嘘のようにシューベルトの強い意思を感じる。また、決して理性は失わない演奏でサウンドも美しい。
お薦め度:A++
(April.29.2020)
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カラヤン/BPO

カラヤン
 
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
管弦楽:ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
レコーディング:1975年1月8日
場所:ベルリンフィルハーモニー

 第1楽章は、透き通るようなホルンの音で始まる。その後、グレイトの名に相応しい大オーケストラの音が響く。ヴァイオリンも木管も見事にシューベルトの難病との辛い闘いを表現しているようである。気持ちをしっかり保とうとしても、どうしても辛さに負けそうになるような憂いが聴きとれる。が、湧き上がる気力の方が勝って楽章を閉じる。力強い第1楽章で気持ちよい。

 第2楽章。なんとも強く美しく切ないヴァイオリンである。カラヤンらしくインテンポでどんどん進行していく。もう少し、歌って欲しい気もするが、それは、カラヤンの意図とは違うようである。たぶん、シューベルトがこの楽章で表現したかったことは、切ない歌ではなく、辛くとも闘う力強さであろうとカラヤンは判断したのではなかろうか。そう思うと、曲の進行に共感できる素晴らしい演奏である。それにしても切なく美しい。

 第3楽章スケルツォ。この楽章も美しさが際立つ。強烈に刻むコントラバスとチェロの音も透き通っていて、激しさの中にもシューベルトの美意識を垣間見るようである。また、カラヤンは、第2主題のメロディーでの切なさの中に明るさも投影する。それは、シューベルトの強い気持ちが負けては欲しくないという思いがカラヤンに働いたと思いたい。力強い演奏でもある。



 第4楽章フィナーレ。冒頭のシューベルトの勝利宣言が最高!まさに勝利を確信して力強く突き進んでいくよう。シューベルトの気迫が次々と覆いかぶさってくるようである。曲が進行するにつれ、迫力と力強さがどんどん増していく。カラヤンはクールというイメージが先行している人が多いと思うのだが、カラヤンのライヴを聴けば分かる。極めて熱い血潮が流れていたことが。この曲でもカラヤンのシューベルトに対する熱い思いが爆発しているように思える。間違いなく大勝利を力強く拳を突き上げて歌っている。カラヤン最高。
お薦め度:S
(April/29/2020)
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