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Schubert
シューベルト

曲目解説&名盤紹介

交響曲第8番ロ短調「未完成」

曲目解説
 シューベルトはこの曲をどうしたかったのだろうか。未完に終わったとは言え、恐ろしく悲壮感に包まれた深い曲である。この曲を作曲したとき、30歳にも届いていなかったのではあるまいか。早逝したのが30代前半だったのだから。20代でこれほど深く絶望した楽想の曲が書けるのだろうか。悲哀どころではない。絶望である。この絶望の中に一筋の光が差し込む。差し込むのだが、それは、第2楽章を待たなければならない。第1楽章は絶望の中でもひたすら生きているのだが、どこまでも死神が寄り添ってくるイメージである。終結部でも悲しみに暮れる最後のようである。
 第2楽章では、少しの光が差してくる。のだが、すぐに絶望的な悲しみに暮れ始める。シューベルトは、自身が難病に侵されていることは承知していたのであろう。シューベルトの30歳前後の曲の楽想は、達観というか悟ったようなものが多い。この曲も自身の死を意識した状況で作曲されたのかもしれない。それほどに辛く悲しく絶望している。そして、儚い生を表現しているようでならない。素晴らしい曲であることは間違いないのだが、聴いていて辛い。
 最初の問いに対しての私なりの考えはこうである。シューベルトは、自分の辛い心情を思うままに作曲したのだと思う。しかし、交響曲的には、スケルツォで明るくなり、終楽章でさらに大団円を迎えなければならない。それは、そのときの心情では、とてもそのような明るく大団円を迎えるような曲など書けなかったということであろう。そんな曲は辛すぎるのだ。だから、この交響曲は全2楽章の交響曲なのだ。完結している。全2楽章だが、大木のようにどっしりとしていて聴く人を圧倒する曲である。



 このように書いていると、どうしても思わずにはいられないことがある。それは、シューベルトは難病で早逝してしまったのだが、病魔と闘い続け、勝利したということ。それは、このように何百年と聴かれ続ける素晴らしい曲を作曲したことが証である。

名盤紹介
バーンスタイン/NYP お薦め度:S+
カラヤン/BPO お薦め度:S+

バーンスタイン/NYP

バーンスタイン

指揮:レナード・バーンスタイン
管弦楽:ニューヨークフィルハーモニック
レコーディング:1963年3月27日 ニューヨーク、フィルハーモニックホール

 この曲の演奏は、曲が曲だけにどの演奏も絶望している。そういう曲なのだから仕方がない。そして、絶望にも様々な表現がある。バーンスタインのは、かなり強烈な打撃が加えられる。シューベルトがその当時感じていたであろう死神の打撃は、これほど強烈だったのではあるまいかと言いたいのかもしれない。第2楽章で光が差してきて、望みが湧いてきても、少しずつ絶望の淵へ追いやられる。そして、浮上できず沈んだまま悲しみの中で曲は終わる。バーンスタインの演奏を聴いていると、第1楽章の強烈な死神の打撃、第2楽章では、同じく死神の執拗な死への招待を感ぜずにはいられない。

シューベルト

 超名演である。シューベルトの心の嵐や静寂を抉り出すかのような表現ではなかろうか。バーンスタインは、曲に共感するというより、徹頭徹尾シューベルトの悲しみと絶望と悔しさを表現しているように聴こえる。バーンスタインの表現には怒りのような悔しさも入り混じっていると思う。シューベルトのような才能の持ち主が早逝してしまったことによるバーンスタイン自身の悔しさも重なっているのかもしれない。
お薦め度:S+
(April.22.2020)
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カラヤン/BPO

カラヤン
 
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
管弦楽:ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
レコーディング:1975年1月8日 ベルリンフィルハーモニー

 この演奏を聴いていると、シューベルトの辛く苦しい状況が、好転する兆しが全くと言っていいほどなく、暗く沈痛な声が聴こえてくるよう。恐ろしいほどに状況が悪くなる印象を受ける。これほどネガティヴな演奏はまずあるまい。交響曲には5大交響曲というのがある。私はクラシックを随分聴いてから、その5大交響曲というのを知った。たぶん、かなり古い基準でチョイスした結果だとは思う。その5曲とは、ベートーヴェンの5番6番とブラームスの1番とチャイコフスキーの6番、そして、このシューベルトの8番「未完成」である。マーラーやブルックナーの曲は一曲も入ってない。第9すら入ってない。不思議ではあるが、この5曲である。シューベルトの「未完成」交響曲の人気が以前ほどないかもしれない。現在の感覚で5曲を選択したら、たぶん、シューベルトの「未完成」は入らないであろう。だが、過去に選ばれていたという事実がある。なぜ、5曲の1曲に選ばれたのか?それは、あまりの悲壮感、いや絶望感が聴く人の胸を強く打つからである。なんともできない悲しさに包まれるこの曲独特の美しさに胸を打たれる。

シューベルト

 カラヤンは、この曲の辛く悲しい絶望感をより重々しく表現する。第1楽章では、一聴するとマイルドな印象を受けるが、どんどん地の底に追いやられる。第2楽章では、希望の光があまりにも儚く弱弱しく聴こえ、挙句、突然苦しみが蘇ってくる。その表現が、あまりにも恐ろしく、そして、儚い希望のパッセージは悟りを開いたかのような印象を受ける。間違いなくシューベルトの「未完成」交響曲は、傑作である。それを実感する演奏である。
お薦め度:S+
(April/22/2020)
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