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Rachmaninov
ラフマニノフ

曲目解説&名盤紹介

ピアノ協奏曲第2番ハ短調

曲目解説

 精神疾患を患った後とは思えないほど落ち着いた楽想であり、絢爛豪華。同じく絢爛豪華なチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番と比較すると、決定的な違いは、この曲は楽想がゴージャスな割に人の温もりを感じるというところであろうか。

 そもそもラフマニノフが精神疾患を患ってしまった原因は、自信喪失に至った辛辣な批評にある。その批評の目的は、ラフマニノフの作品に対するものではない。モスクワのモスクワ学派とペテルブルクの国民学派の対立に起因するラフマニノフが属するモスクワ学派への攻撃であった。そのとき、24歳の若きラフマニノフにとっては、そのような裏事情があったとはしらなかったであろう。しかも指揮したのは、ペテルブルクのグラズノフで初演の場所もペテルブルク。上手くいくはずなかったのかもしれない。このエピソードは、ラフマニノフの人となりが窺い知れるというものである。そもそもいい人でなければ、そのような状況から精神疾患を患うこともあるまい。私なら"うるせー"の一言で終わりかもしれない。私は時には短絡的なことを言う。失礼した。

 そんな地獄の中にあったが、その疾患を医学博士ニコライ・ダーリの催眠療法によって克服し、且つこのような素晴らしいピアノ協奏曲を作曲した。因みにラフマニノフの才能を評価しピアノ協奏曲を依頼したのは、イギリスのロンドン・フィルハーモニック協会。この音楽協会は実に凄い実績を持っている。何しろ、作曲家の才能を見出すことに実に長けていて、支援をしている。古くはベートーヴェンに遡る。ベートーヴェンの第9交響曲が生み出されたのは、このロンドン・フィルハーモニック協会が交響曲を嘱託したからに他ならない。しかも、実力を認めているからこそ、ハイドンのようにロンドンへも招聘に動いていた。結局はベートーヴェンが乗り気にならなかったため実現しなかったが、実現していたら、ベートーヴェンは、まだ長生きできたかもしれないのと、更なる成功を手にできたであろう。ラフマニノフが後年アメリカへ渡ったことはたいへん良いことだったと思う。彼だけではない。プロコフィエフも渡米した。

 話が随分逸れてしまったが、ラフマニノフのピアノ協奏曲である。ラフマニノフのピアノ協奏曲は彼の他作品と比較すると、その親しみ易さは格別である。前述したとおり絢爛豪華に加え終始ロマンティシズムに溢れ、聴き手を恍惚とさせる。まさに鏡花水月で、手に入れたいが手で触れることができない。そんなもどかしさを覚える魅力に溢れている。結局我々はお気に入りの演奏のCDを大切に所持するのは、触れることのできない音楽を手に入れるためでもあろう。

名盤紹介

リシッツァ/フランシス/LSO お薦め度:S

リシッツァ/フランシス/LSO

リシッツァ

ピアノ:ヴァレンティーナ・リシッツァ
指揮:マイケル・フランシス
管弦楽:ロンドン交響楽団
レコーディング:2009年9月12,13日
場所:ロンドン、アビーロード・スタジオ

 リシッツァというピアニスト。なんと、自分で録音したものをYouTubeにUPしたところ、一気に注目を集め、このようなCDを発売するに至った。しかも、このCD、ラフマニノフのピアノ協奏曲全集とパガニーニの主題によるラプソディーも収録されている。全集の録音を依頼されるほどの実力というわけである。さらにバックはトップオーケストラのロンドン響である。このような経歴を持っていると、私としては、どうにも聴きたくなる。実力者であることは間違いないのだから。



 安定感抜群でバランスよく透き通ったサウンドを繰り出すロンドン響のサポートを受けて、重めのサウンドと絶妙な技巧を繰り出すリシッツァのピアノ。いきなり全集をレコーディングした理由がしっかり演奏を聴けば分かる。最初聴いたとき、重厚だが、所々楽譜から音がずれているように聴こえた。しかし、それは何かの仕掛けであろうとは想像ついたので、数回聴いてみた。すると、凄いものが見えてきた。音がずれているのではなく、わざとずらしている。普通、縦の線をずらすと、音に広がりと深みと歌が増す。もちろん、上手くずらした場合のこと。リシッツァのは、縦の線をずらすどころではない。以前、カルロス・クライバーという指揮者がいた。このマエストロのベートーヴェン交響曲第4番の演奏は凄かった。旋律は歌うし、ド迫力、さらには疾風のように颯爽と駆け抜ける、なんとも言えぬ気持ちよい演奏。リシッツァのピアノはまさにこのタイプではなかろうか。ド迫力、疾風の如く駆け抜ける、そして、歌。である。歌については、クライバーとは違う歌い方である。しなやかに歌うイメージというより、私は力強く歌うイメージと捉えた。これから先、楽しみがまた一つ増えた。このピアニストも追いかけていこう。
お薦め度:S
(April/29/2020)
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