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JOHANNES BRAHMS
ヨハネス・ブラームス

曲目解説&名盤紹介

交響曲第3番ヘ長調

曲目解説

 ブラームスは、第1交響曲の大成功の後、第2交響曲など立て続けに名曲を連発して発表していく。そして、第2交響曲の時と同様に休息を取るため、今度はヴィースバーデンという温泉地に滞在する。このとき、作曲されたのが、この交響曲第3番ヘ長調である。このとき、ブラームスは若いアルト歌手ヘルミーネ・シュピースに恋をしていた。その恋は、うまくいかなかったことが推測される。というのも第2交響曲のように明るい幸福感が、この第3交響曲にはほとんどないのだから。

第1楽章
 この楽章は、ヘルミーネに恋をしたブラームスの揺れ動く心境と解釈できる。繊細で儚く切なさを湛えた楽想で聴く者の心を何とも言えぬほど感傷的にする。相当、ブラームスは相手のことを思っていたのであろう。結構楽想が、荒れ狂っている。

第2楽章
 保養地でゆったり寛いで、恋をしている相手のことでも夢想しているような、そんな曲である。第1楽章の動機も奏されたりする。ひょっとすると、この動機は、ヘルミーネのことを表現しているのかもしれない。好きでたまらない相手のことで胸が一杯になったのではと思うほどの盛り上がりを途中見せる。

第3楽章
 この楽章のメロディーは多くの作品で取り上げられている。映画やミュージシャンが歌詞を付けて歌ったりしている。それほど歌心に溢れた旋律である。楽想は、やはりブラームスの切ない感情で満たされているとしか思えないほど、空しく辛くほのかに甘い。魅力溢れる旋律である。

第4楽章
 切迫感に包まれている。ヘルミーネとの関係が終わるのではと思わせる不穏な曲想で始まる。途中、潔く忘れようと努めているかのように少し前向きな曲想になるが、やはり、辛いのであろう。荒れ狂うように曲が大きな起伏を迎える。終結に近づくにつれて、結局、保養地を去るときを迎え、忘れることに決めた辛い思いと前を向かなくてはならないような心境とが相俟って、ネガティブとポジティブが絡み合ったような楽想になり、弱音で曲を閉じる。全楽章、弱音で終わるのだが、これが、上手くいかなかった恋の結末を物語っているよう。



 この交響曲は、全楽章、とても魅力的な旋律に支配されている。どこを切り取っても魅力的である。間違いなく傑作である。それなのにブラームスの交響曲の中で一番人気がない。その理由を邪推するなら、やはりネガティブな楽想だからではなかろうか。美しい。確かに美しい旋律である。だが、ネガティブなのだ。それゆえ、聴く人も少し遣り切れない気分になる。

名盤紹介

チェリビダッケ/ミュンヘンフィル(Live) お薦め度:A

チェリビダッケ/MPO

チェリビダッケ

指揮:セルジュ・チェリビダッケ
管弦楽:ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団
レコーディング:1979年6月20日(ライヴ)
場所:ミュンヘン、ヘラクレスザール

 チェリビダッケ晩年の演奏ではない。まだ少し若い頃の演奏で、テンポも極度に遅いということもない。逆に少し違和感を感じる。若かりし頃のチェリビダッケは、メリハリを強く付けている。第1楽章では、速めのテンポで颯爽と演奏しているが、アンダンテの第2楽章では、通常よりゆったりしたテンポだ。だが、晩年のチェリビダッケとの決定的違いは、終始ゆったり目のテンポではないということ。曲に歌を感じる箇所では、テンポは普通でしっかり歌い込んでいる。この頃のチェリビダッケの解釈も素晴らしいものがある。というのも歌い方が一味違う。切ない気持ちを力一杯心を込めて丁寧に歌い上げている。オペラ的な歌い方とは違う。不器用な人が誠心誠意、真心を込めて相手に気持ちを伝えようとしているような表現である。なんとも心を打たれる。

チェリビダッケ

 そういえば、私が中学生の頃、チェリビダッケが来日した。そして、リハーサルを公開するというので、私は楽器を演奏するわけではなかったが、応募してみた。すると、意外にも当選した。で、リハーサルを見に行った。リハーサルとはどのようにやるのだろう?と興味深々で。ところが、リハーサルはこれまた意外にもあっという間に終わった。10分程度か、もっと短かったかもしれない。随分前の記憶だから、ハッキリとしないが、あっという間に終わったことは覚えている。がっかりだった。だが、考えてみれば当然と言えば当然。来日するぐらいだから、演奏は当然仕上がっているに決まっている。日本に来てから、ああだこうだとやるわけない。だから、確認事項だけをさっとやったのだと思う。だが、チェリビダッケを生で見れたのはよかったと思う。私が今まで生で見たことのある有名なアーティストは、クラウディオ・アバドとエリアフ・インバルと五嶋みどりである。アバドとみどりは凄く良い思い出である。インバルはチェリビダッケほどではないが、記憶が薄れている。
お薦め度:A
(April.19.2020)
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