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Robert Schumann
シューマン

曲目解説&名盤紹介

幻想曲集「クライスレリアーナ」OP.16

曲目解説
 この曲は、8曲構成になっとる。第1曲を聴き始めると、最初に受ける印象は華やかな印象である。言うなれば、貴族社会の華やかなパーティや音楽といったところであろうか。最初にこのような印象を受けるため、後の7曲も同じような楽想なのかと思い込む。要は、そういった華やかなイメージを持った曲を作曲したのだろうと思うわけである。実際、この第1曲は、その時代、誰も考えつかなったタイプの曲で、凄い曲であることが分かる。だから、否応にも第2曲以降の曲にも期待が膨らむ。だが、第2曲以降、この第1曲のような明るく華やかさを持つ曲は全く登場しない。なぜであろうか?

 この曲のタイトルは「クライスレリアーナ」である。一体何のことであろうか?これはドイツ語で、クライスラーという人に対するある印象を付け加えた言い方なのである。どういう印象かは後述する。まず、クライスラーという人物は一体誰なのか?実はE.T.A.ホフマンの書いた本に登場する人物となっとる。このクライスラーは楽長である。たぶん、ドレスデンの宮廷楽長なのであろう。この人物実在しとる。この人物はたぶん、ロマである。そもそも、その時代のドイツでも、その地位にいられるのは大抵ロマである。ロマは建設的なことはできないが、真似事はできる。そして、あらゆる卑怯な手を使って上の地位を手に入れることをやる。これは、世界のロマの共通しとる点である。だから、彼は汚いことをやり続け、その地位を手に入れることができた。が、結局、そのような行為は次第にばらされていく。その結果クライスラーは、宮廷楽長という立場が立場だけに追い詰められることになる。結果、その地位を追われこの世から姿を消した。たぶん、命を絶ったのであろう。

 シューマンは、当時生きとったわけだから、そのような話を知ることになったのであろう。当然、彼はミュージシャンであり、そのような者が宮廷楽長というポストにいることは、とても許せることではなかったはずである。だが、相手の地位は相当高い。だから面と向かっての対決はできない。それで、シューマンはこの曲を作曲したのである。中身について書いていこう。

 第1曲:クライスラーが置かれとる環境についての曲。宮廷楽長であるわけだから、周囲は明るく華やかな場所であろうということで、このような楽想になったと推察する。実際、凄い曲で、クライスラーの周囲の環境を表現しつつ、クライスラーの不穏で暗い部分も表現されとる。だから、明るく華やかな楽想の中に不気味な楽想の旋律が隠れとる。
 第2曲:穏やかな楽想で始まる。これは、クライスラーの身に何も起きていないことと周囲の者もまだ穏やかでいられる状況ということであろう。そんな部分もシューマンは特殊な曲にしとる。旋律を装飾するにあたり、伴奏のようで伴奏でない音を作っとる。即ち伴奏すら旋律のようにしとるということ。軽く凄いことをやっとる。その後、突然激しく楽想が揺れる。明らかに大きな波風が立ったことが分かる。これは、たぶんクライスラーが何かをやったということであろう。そして、すぐまた穏やかな楽想に戻る。その後、再び大きな波風がやってくる。楽想も悲劇的なものに変化し、何者かが落ちていくように曲は下降していき、何らかの結末を迎える。が、再び平穏に戻る。8曲中この第2曲が一番長く、各曲の3倍ほどの長さである。だから、この曲では、クライスラーが引き起こした事件を表現しとると思う。
 第3曲:曲的には、聴きやすく理解し易くはあるが、どうしても、クライスラーの黒い感情が見え隠れする。ここも凄く、暗い感情と共に悲劇的なものがときどき表現されとる。劇的な曲。
 第4曲:第2曲のような優しく穏やかな曲想で始まるのかと思いきや、直ぐに暗い楽想に変化する。中間部の後、暗い部分が取り除かれる。たぶん、この曲で表現しとることは、クライスラーの黒い部分が周囲に影響を及ぼしとるのだが、周囲は気付かないといったところかと思う。
 第5曲:この曲も圧巻である。表現しとる内容を考えるとシューマンの凄さに驚嘆する他ない。この曲では、黒いクライスラーが怪しく動き回るような様であろう。彼は普通に振舞っとるつもりだろうが、どうしても黒いことをするということを表現するため、楽しく弾むようなテンポで曲は進行するが、楽想には不気味な印象が根底に横たわっとるのである。だが、そのことに本人も周囲も気付いていないといったところであろう。
 第6曲:第4曲の続きである。段々、クライスラーを取り巻く環境が変化してきとる。第2曲から第4曲、そして、第6曲と繋がっている。どんどん暗く沈潜するような印象に変わってきとるのがよく分かる。クライスラーがかなり沈み込んどる様子である。
 第7曲:とうとう、クライスラーのやってきたことが白日の下に晒される。そこで、クライスラーが猛攻撃を受けとるのがよく分かる。猛攻を受けた後、愕然となった印象で曲が終わる。
 第8曲:この曲はクライスラーの最後である。第3曲、第5曲に続いて、クライスラーの黒い心の動きが表現されてはいるが、どんどん悲劇的な方向へ向かっとることが聴き取れる。また、クライスラーの諦めのような気持ちすら聴き取れる。その後、クライスラーの黒い感情だけの表現になり、ぶつりと曲が切れる。そこで、クライスラーの最後ということであろう。



  とにかく、凄いことをピアノだけで表現しとる。しかも、シューマンの技量を惜しげもなく投入し、悪いヤツを糾弾しとる。シューマン、凄い男である。そりゃ、クララも惚れるであろう。最初に書いた「クライスレリアーナ」とは、クライスラーに夢中というような意味なのだが、要は皮肉である。あんたのことはもう皆知っとるよといったところであろう。ダヴィド同盟。
(April.18.2022)

名盤紹介
エレーヌ.グリモー お薦め度:S+

エレーヌ.グリモー

エレーヌ.グリモー

ピアノ:エレーヌ.グリモー
レコーディング:不明
場所:オランダ、市役所講堂

 レコーディングされたときの彼女の年齢はたぶん、15歳ぐらいである。CDのジャケットを見れば一目瞭然である。随分と若い。日本人の顔立ちより欧米人の顔立ちの方が年上に見えるのは普通であるから、それを考えると、彼女のその時の年齢は15歳以下の可能性もある。それを考えると、この演奏は異次元レベルの演奏と言える。凄すぎるのだ。

エレーヌ.グリモー

 確実にシューマンの意図するところを表現しきっとる。私には、まだまだ聴き取れていない表現の箇所があると思う。だから、この演奏を聴く楽しみがまだまだ残っとる。しかも、これだけ凄いと忘れた頃に再び聴きたくなる演奏である。たぶん、生涯聴いていくと思う。また、私が思うのは、彼女はその当時、何を思ってこの曲を演奏しようと思ったのだろうか?10代半ばの女の子が選ぶ曲ではない。言うなれば、ピアニストとして大成した後ぐらいにレコーディングする曲なのだ。何故このような難解な曲を選んだのだろうか?ダヴィド同盟と関係があるようである。

エレーヌ.グリモー

 繰り返しになるが、10代半ばの人ができる解釈でもない。メリハリが凄いし、第7曲などは圧巻である。バーンスタインを彷彿とさせる表現力である。曲の構造を壊すことなく、自在に自分の表現を盛り込んでいく。そして、聴く者をどんどん曲にのめり込ませてくれる。もっと多くの人に聴いてもらいたい。
お薦め度:S+
(April.18.2022)
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