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Johannes Brahms
ブラームス

曲目解説&名盤紹介

ピアノ・ソナタ第2番嬰へ短調OP.2

曲目解説
 この曲は、作品2となってはいるが、実際は最初に作曲された曲だそうである。しかし、作品1のピアノ・ソナタ第1番もほとんど同時期に作曲された。1番と2番には決定的な違いがある。1番の方は聴き込んだわけではないが、ブラームスらしい主題が聴こえてくる。ブラームスらしいとは、悲哀や寂しさが表れとるという意味ではない。ブラームスのメロディーが聴こえてくると言いたいだけ。それに対してこの曲からは、ブラームスの流れるような主旋律ではなく、主旋律のようで主旋律ではない、主旋律ではないようで主旋律が聴こえてくる。非常に曖昧な主題(主旋律)が聴こえてくる。だが、一方で見事な手法で主題を装飾しとる。ヴァイオリン協奏曲の解説で書いたが、そちらの方でも見事な装飾ではあるが、間違いなくブラームスの主題が各楽章から聴こえてくる。だから、そちらの意味ではない。この曲は、明らかにブラームスが故意にこのような曲に仕上げたと考える。では一体何故こうしたのか?

 明らかに自分の敵の存在に気付いたからである。自分の敵、即ち多くの作曲家達の敵である。もちろん、作曲家だけの敵というわけではない。普通の人の敵でもある。シューマンは、奴等を落とす曲を作っとる。だから、シューマンと親交のあったブラームスも同じ曲を作ったのではないかと考えた。そこで俺は、奴等のことについての曲なのではと仮定してみた。すると、曲に対する理解が深まったのだ。第1楽章の主題は前述のように主題らしからぬ主題なのだ。要は未完な感がするのである。一方で装飾は見事。だから、中身があまりないが、外見は見事に装っとる者を表現しとる。楽想もよく分からないのだ。イメージできるものがないのである。言うなれば、意味不明な奴の動きを表現しとるとさへ思う。いかも、どこか、黒い影を感じる。第2楽章はもっと黒く分かり難い。これも奴等の印象と考えると、納得がいくし、ブラームスの凄さが伝わってくる。

 第3楽章では、何故かブラームスらしい旋律が聴こえてくる。もちろん、全体に亘ってというわけではない。これは、たぶん、そいつに騙された女性を表現しとるのであろう。奴等は女性を騙して残酷なことをやる。これは有名である。だから、女性が登場するから、ブラームスらしい優しい旋律が聴こえてくるのであろう。楽章の最後の方では女性が奴を批判するように喧嘩のような雰囲気になるが、最後、やはり奴が強引に自分の意思を貫く様子が聴こえる。



 第4楽章では、女性は登場しないと思う。奴一人である。意味不明な動きと共に、奴が落ちていく気持ちが表現されとる。一方でコミカルな部分もある。もちろん、面白おかしいのではなく、変なヤツという意味であろう。最後に近づくにつれて、どんどん落ちていき、この世から消え去る。その後、そいつの周囲がほっと一息付けるような穏やかなイメージになり曲は静かに閉じる。たぶん、この解釈で合っとると思う。ブラームスの最初の曲なのだが、やはり天才という人は凄いことをやる。
(April.24.2022)

名盤紹介
エレーヌ.グリモー お薦め度:S+

エレーヌ.グリモー

エレーヌ.グリモー

ピアノ:エレーヌ.グリモー
レコーディング:不明
場所:オランダ、市役所講堂

 この演奏は、確実に彼女が10代半ばのときのものであろう。シューマンの「クライスレリアーナ」の演奏のページでも書いたが、この曲も10代半ばの女の子が選ぶ曲ではない。しかし、彼女はこの曲を演奏した。しかも、中途半端などではなく、完璧に弾きこなしとる。物凄い演奏なのだ。その年齢でよくここまで理解してくれたと感動してしまう。彼女は確かにこのような曲を知る必要があるし、理解する必要もある。でも、簡単に理解できるものではない。だからこそ、彼女の洞察力の凄さに感嘆する。テクニックも凄腕である。世の中には、実は偽者のピアニストが存在する。他のピアニストが何年も掛けて考え抜いた末、辿り着くことができた解釈を盗み、コピーして、あたかも自分の解釈のように得意満面でコンサートで披露するのである。とても許せる行為ではない。エレーヌ.グリモーもそのような奴等の被害者である。この曲の解釈についての話ではないが、そういった被害にも彼女は遭遇しとる。

エレーヌ.グリモー

 話が逸れた。何度も書くが、完璧な演奏である。奴等のことを実に巧く表現しとる。奴等の怪しいところ、奴等の奇妙なところ、奴等の黒いところ、奴等の不気味なところ、この曲にはこういった様々な奴等の行動や感情が織り込まれとる。これを彼女は見事に表現しきっとる。曲が曲なだけに、他のブラームスの名曲のように感動はできない。だが、この曲の凄さをこれでもかと彼女は教えてくれる。ダヴィド同盟。

お薦め度:S+
(April.24.2022)
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