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Ludwig van Beethoven
ベートーヴェン

曲目解説&名盤紹介

ピアノ協奏曲第1番ハ長調

曲目解説

 ベートーヴェンはウィーンに留学したとき居住した建物には、後ほどベートーヴェンの熱心な支援者になるリヒノフスキー侯爵夫妻も居住していた。そのリヒノフスキー侯爵との出会いから、リヒノフスキー邸のサロン演奏会に招かれることになる。そこからベートーヴェンの名があっという間にウィーンの社交界に広まることになる。また、ベートーヴェンがウィーンに乗り込んだとき、フランスでは革命が起こっていた。その余波は承知のようにドイツへも及ぶ。ベートーヴェンの名がウィーンで売れたちょうどそのころ、ベートーヴェンに宮廷楽士として給与を支払っていたボンの宮廷がフランス軍の侵攻により消滅する。その為、ベートーヴェンはボンの宮廷楽士という肩書きと給与両方を自動的に失うことになった。かなり危機的状況に陥ったと言っていい。その頃、ウィーンでは毎年催される慈善コンサートというものがあり、このコンサートの出演者としてベートーヴェンに白羽の矢が立った。曲もベートーヴェンの曲となった。そこで、ベートーヴェンは、ピアノ協奏曲第1番と第2番を披露することになる。

 ベートーヴェンとしては、宮廷のお抱え音楽家ではなく、自由に活動できる音楽家へ移行できる絶好の機会となった。しかも、サロン内ではなく、大規模コンサートでの成功は名声を飛躍的に高め、独立への大きな一歩となる。しかもベートーヴェンにとって大規模コンサートは初めての経験でもあり、意気込みは相当なものであったはずである。それを物語るのがこのピアノ協奏曲第1番である。

 まず初めに、ピアノ協奏曲について。ピアノ協奏曲というのは実は交響曲より歴史が古い。ベートーヴェンがウィーンに乗り込んだ時代でも、作曲家として名を売るには、交響曲よりピアノ協奏曲での成功の方が価値が高かった。そもそも交響曲での成功の方が価値が高くなったのは、ベートーヴェンが凄い交響曲を連発してからのこと。交響曲第1番はこの曲の後に作曲されている。だから、ベートーヴェンはこのピアノ協奏曲に持てる力を注ぎこんだと思われる。ピアノ協奏曲第2番も同時期に作曲されているが、第1番の方が規模が大きく演奏時間も長い。詳しく見ていこう。

第1楽章
 冒頭から優雅で親しみ易い主題が奏される。この主題、オーケストラで奏されると気高く優雅に聴こえる。が、ピアノで弾くと、演奏にもよるが素朴な感じもするから不思議である。また、カデンツァはピアニストの技巧の見せどころであり、ベートーヴェンの当時の技巧を聴き取ることが可能である。その技巧は、楽想を様々に変化させ聴く者を圧倒していたのであろう。そんなカデンツァである。若かりし頃ウィーンのサロンを席捲したベートーヴェンのピアノ演奏。特に即興演奏は皆度肝を抜かれたとの逸話が数多く残っている。その演奏を今でも味わうことができるのが、このカデンツァである。

第2楽章
 この楽章でも、ベートーヴェンは持てる力を出し尽くしたのではなかろうか。緩徐楽章だが、ピアノに緩急が巧く付けられており、主題もまた気品に溢れ安らぎに満ちた楽想である。この楽章からも、初期のベートーヴェンがサロンで行ったであろう演奏の一端をピアノ独奏から聴き取れ、表現の幅広さを感じ取れる。

ウィーン

第3楽章
 この終楽章を完成させたとき、ベートーヴェンは自信満々であったであろう。完璧な楽想の構成である。第1楽章で優雅な雰囲気を醸し出しつつピアノ独奏では素朴さを出すことにより、楽想においても緩急を付けることに成功している。そして、第2楽章で、まさに心が安らぐ心地に誘い、この第3楽章では明るく快速で且つオーケストラにキレのある伴奏をさせ迫力を演出。曲は疾走する。楽想も明るいだけではなく終楽章らしくエンディングに向かって疾駆する高揚感が漂い、聴き手を興奮させる。終結部も初期の曲らしかならぬ迫力がある。
 この辺をもう少し詳しく書くと、第1楽章は、当然ソナタ形式を採っている。であるから2つの主題が錯綜し展開する。それにより高度な技巧の楽曲になる。ベートーヴェンはその上、楽想でも2つの真逆と言えるものを錯綜させることをやっている。2重の仕掛けである。当然、深みも増す。次に第2楽章では、第1楽章のカデンツァでの高度な技巧だけではなく、緩やかな安らぎに満ちた曲も表現できることを証明する。終楽章では、楽想でエンディングを見事に演出し高揚感を出している。

 この曲はモーツァルトの影響下から脱しきれてはいないかもしれないが、ベートーヴェン初期の曲中の傑作である。この頃に作曲された曲と比較しても傑出しているのではなかろうか。ベートーヴェンのウィーンでの独立への意気込み、気迫が感じられる。ウィーンでの最初のコンサートが大盛況に終わったと想像できる。実際、このコンサート以降、ウィーンでのベートーヴェンの名声は飛躍的に高まった。

名盤紹介

・グールド/ゴルシュマン/コロンビア響 お薦め度:S
・ダグラス/カメラータ・アイルランド お薦め度:A
・リヒテル/エッシェンバッハ/シュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝管(Live)
 お薦め度:A
・エマール/アーノンクール/ECO お薦め度:S
・ゼルキン/クーベリック/BRSO(Live) お薦め度:A

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